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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)2072号 判決 1960年9月27日

事実

原告は海運業を目的とする会社であり、被告は原告の代理店として運賃等の集金をして原告に送金する契約があり、これに基づく被告の未払残債務が八六八、〇〇〇円に達した。以上が原告の請求原因第一項ないし第三項の要約である。

四、被告は昭和三四年一二月七日原告に対し右債務につき昭和三四年十二月を第一回とし、毎月末日一月二〇、〇〇〇円宛(最終回は八、〇〇〇円)分割支払うべき旨約諾し、同時に右支払のために金額右と同額、満期右毎月末日、支払地、振出地共宮崎県日南市、支払場所鹿児島銀行油津支店なる約束手形四四通を振出し、その後満期が昭和三四年一二月末日、昭和三五年一月末日同年二月末日なる右約束手形三通の手形金計六〇、〇〇〇円だけは支払があつたが、既に弁済期到来の昭和三五年三月ないし同年八月の各末日分の右手形金即ち前記分割金合計一二〇、〇〇〇円の支払がない(本項の事実は元来被告提出の抗弁事実なるところ、原告においてこれを自認したものである)。よつて先ず右一二〇、〇〇〇円及びこれに対する損害金の支払を求める。

五、右のような弁済期到来の債務につき不履行ある事実に徴するときは、未だ満期の未到来の約束手形が将来満期に至るも支払われない虞が現在存すること明白であるから、右満期及び手形金に相応して将来弁済期到来のとき右分割金の支払を求めうるため前項の請求と併せ提訴する。

即ち原告は被告に対し

(一)(1)一二〇、〇〇〇円 昭和三五年三月末日から同年八月末日迄なる既に弁済期到来の一月二〇、〇〇〇円宛の分割金合計

(2)右に対する昭和三五年五月二七日(訴状送達の翌日)から支払済に至る迄の商事利率の年六分の割合による損害金

の夫々支払を求めるため現在の給付の訴

(二)(1)昭和三五年九月末日から昭和三八年六月末日迄毎月末日一月二〇、〇〇〇円宛

(2)昭和三八年七月末日八、〇〇〇円の夫々支払を求めるため将来の給付の訴に夫々及ぶ。

被告の主張

一、結局のところ請求の原因第一ないし第四の事実は認める。

二、抗弁

弁済期未到来なる債務につき訴求するは失当である。

理由

請求の原因第一ないし第四の事実は何れも当事者間に争のないところであり、訴状送達の翌日が昭和三五年五月二七日であることは記録上明白である。

然らば、請求の原因第五の(一)の各請求は理由がある。

そこで、将来の給付の訴による請求にかかる請求の原因第五の(二)のそれの権利保護の利益の有無について考えてみる。一般的に債務者の弁済態度は同人の具有する債務履行に対する誠実観念なる人格表現である。換言すれば後者なる本質から顕現した前者なる現象であり、右本質が質的変化を来さない限り、条件ある都度回帰的に右本質に対応する現象は続出するというべきである。してみれば、弁済期の到来した債務につき不履行をなすものは、特別の事由の存しない限り、その未到来の債務についても亦不履行を反覆すべきものなることは事理寔に明白である。そして、このような反覆性は「将来の給付を求める訴は債務者が将来給付をなすべき時期に達するも給付をなさざる虞ある状況あるときに限りこれを許すべきものと解するを相当とす」(大審院民事判例集七巻六〇頁)るとの命題中の特定の虞ある状況あるときに該当する一事例である。然らば、本件の場合は将来の給付の訴の権利保護の利益を有しているということができる。よつて、被告の抗弁は採用に値しない。そうすると、被告は原告に対し請求の原因第五の(二)の各金員を夫々弁済期に支払う義務あること明白である。

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